「アメリカで作られる豆腐は旨いらしい」
なんて話を学生時代に友人から聞いたことがあります。

まだインターネットもない時代の話ですから、事の真偽は確かめようもなかったのですが、彼が力説するその理由には妙な説得力がありました。
「だって、豆腐を作るどころか、見たことも食べたこともない人が作るねんで。工場での大量生産のやり方なんか知らんわけや。その人らが、昔ながらの作り方を文献なんかで調べて、その通りに作ったら旨いに決まってるやん」

美味しんぼが大流行していた頃の話です。同作に感化されていた彼が、いかにも飛びつきそうなネタではありましたね。
権威を持たない弱者(=アメリカ人)が、権威を持つ強者(=日本人)に愚直な努力で挑んで打ち勝つ!──なんてストーリーは、同作の十八番でしょう。
俗に「ビギナーズラック」という言葉があります。

初心者が経験や知識が不足しているにもかかわらず、偶然や幸運によって最初の挑戦で成功を収める現象を指す言葉です。
けれど「ビギナーズラック」の勝因は、「運(ラック)」といった不確定な要因だけではなく、もっと確定的で必然性のある理由もあるのではないでしょうか。
僕はその一つが、初心者ゆえの知識不足、経験不足ではないかと考えています。
知識や経験が不足していることは一見不利な条件に見えますが、ちょっと視点を変えてみてください。
それしか知らなければ、ゴールに至る選択肢は狭まり、道筋はシンプルになります。

つまり、途中で迷うリスクが軽減されるのです。
一方で、ベテランが陥りがちな罠として、経験や知識が増えるほど選択肢も増え、欲や恐れ、情報過多から迷いが生じやすくなる、という点が挙げられます。

結果として、初心者がベテランに勝ってしまう──そんなことも、案外あるのかもしれません。
2026年のおせち料理のテーマは「肴」と決めました。
おせち料理特有の縛りやお約束はすべて取っ払い、酒飲みが喜びそうな肴を詰め合わせるというのが狙いです。
献立の自由度を上げた分、初挑戦となった料理もけっこうありました。

この「タコのチャンジャ」もその一つです。
チャンジャは元々、鱈の内臓のキムチですが、食感が似た茹でダコを使ってこしらえてみました。
それを食べた娘がえらく感動して、こんな感想を漏らしていましたっけ。
「日本で売っているチャンジャと全然違う。これ、韓国で食べた本場のチャンジャにそっくりだ」

そう言われても、僕としてはこう返事するしかなかったのです。
「いや、ヤンニョムの合わせ方は、これしか知らないから」
ビギナーズラックというのは、時としてミラクルを起こすものらしいです。
【材料】(1人分)
-調理時間:40分-
- タコ:130?150g
- ごま油:4g(小さじ1)
- 炒りごま:適宜
[ヤンニョムダレパート]
- 粉唐辛子:大さじ2
- コチュジャン:12g(小さじ2)
- イワシエキス(なければナンプラー):12g(小さじ2)
- 砂糖:9g(大さじ1)
- 味醂:6g(小さじ1)
- 酒:5g(小さじ1)
- はちみつ:7g(小さじ1)
- おろしにんにく:ひとかけ分
- おろし生姜:ひとかけ分
【作り方】
- タコは小さめのぶつ切りにします。
- [ヤンニョムダレパート]を合わせてよく混ぜます。これにタコを加えてよく和え、30分漬け込みます。
- 2.にごま油と炒りごまを加えてよく和えればできあがり。
【一口メモ】
- 日本で売られているチャンジャは、甘めの日本人好みのテイストに調整されているものが多いですが、このレシピはわりと韓国で売られている本格派の風味が楽しめます。
- 粉唐辛子は、韓国食材専門店以外にも大きめのスーパーや輸入食材のお店などで手に入ります。できれば細挽きのものをチョイスしてください。その方がヤンニョムの味沁みが早く、鮮やかな赤色を出せます。
- イワシエキスも韓国食材専門店などで手に入りますが、わざわざ買ってこなくてもナンプラーで代用できます。あるいは同量のアンチョビ、またはイカの塩辛でも似たテイストが出せます。
- ごま油を漬け込み時に一緒に加えると、イワシエキスのコクが出にくくなるので後がけにしてください。なんなら、食べる時にお好みの量をかけるスタイルでもOKです。
- 多めに作ったら冷凍保存も可能です。

