「流行はらせん状に進化する」
かつて、ポールマッカートニーがそんなことを言ったそうです。
ビートルズの一翼を担ったアーティストの言葉だけに"流行"というワードの重みが違うなぁと思うのですが、この発言を理解するにはいささか説明が必要だと思います。
流行を真上から俯瞰して2次元的に観察するとまるで円を描くようにぐるっと一周回って数年後に同じところに還ってくる。
そして、似たようなものがまた流行っているように見える。
けれど、真横から3次元的に観察すると流行は円運動をしているのではなくらせん状に移動していて、(真上から見て)同じポイントに還ってきた時は数年前のずっと真上にいる。
だから、それがもう一度流行る理由も、その本質も数年前とはまるで違うんだよ──といったほどの意味だとか。
なかなか含蓄のある言葉ですがこれは流行に限らず衣食住の風俗全般について当てはまるような気がします。
例えば家に常備する調味料の歴史を振り返ると非常に興味深いことが分かります。
今から200年前1825年を起点にして、家にある調味料の歴史を年表風にまとめてみるとこんな風になります。
- 1期:1825-1867(42年間) 少量(必要に応じて買うくらい)
- 2期:1868-1940(72年間) 大量(一升、一樽単位で買うのが普通)
- 3期:1941-1957(16年間) 少量(買いたいけど売ってない)
- 4期:1958-1988(30年間) 中量(調味料が多様化し種類が増えた)
- 5期:1989-2018(29年間)徐々に少量化(合わせ調味料など便利系が主流)
- 6期:2019-2025(6年間) 二極化(全く置いてない家とマニアックな家に分かれた)
この年表だけ見ると家にあまり調味料を置いていない江戸後期(1800年代)から始まって明治、大正の調味料爆買い期を経て、平成の終わり頃には再び家にあまり調味料を置いていない状態に一周回って戻って来たように見えます。
けれど、それは食文化史を真上から、つまり2次元的に俯瞰しているから、そう見えるだけ。
真横から3次元的に観察すれば江戸時代の調味料を常備しなかった事情と平成、令和のそれとはまるで別物であることがわかります。
モデルとして東京という街を例に挙げましょう。
江戸時代の東京(江戸)は男女比2:1でやたら独身男性が多い街でした。
当然、家で料理をしてくれる人はおらず食事は屋台や荷売り屋(できあいのお惣菜を売る店)で買ってくるのが主流。
家で料理をするのはレアケース。
必然的に調味料も調理器具も必要最低限しか家にはなかったのです。
それが2期の明治、大正期になると男女比が改善され結婚率アップ、3世帯が同居なんてのが当たり前になると一転して一升瓶や樽単位で調味料を常備するようになっちゃった。
この頃の家庭料理は実にアバウトで全てが目分量。
それでも作る料理の量が大量だから味がぶれにくかったんでしょうね。
3期は戦中、戦後の頃。
家にある調味料が乏しかったり代用調味料だったりしたのはそうしたくてそうしていたのではなく単に食糧事情が悪かったためです。
4期の昭和中期から後期は核家族化が進んで一度に作る料理の量が減ったので常備する調味料の量も減っていきました。
それだけでなく洋食や中華料理を家で作るのが一般的になり、ソース、ケチャップ、マヨネーズなどいままでは家になかった調味料も常備するようになって多様化が進みました。
5期のバブル期から平成にかけては家庭料理に大きな影響を与えた3つの出来事がありました。
一つ目はファミレスの登場。
外食は特別なことではなくなり、平日でも外で済ますことが珍しくなくなりました。
二つ目はコンビニの登場。
24時間いつでも開いているお店は遅くまで残業しているサラリーマンの強い味方になりました。
そして三つ目は合わせ調味料の台頭。
COOK-DO的な「〇〇の素」は「これひとつで味が決まる」便利アイテムとして重宝されました。
この3大革命によって、家で料理をすることが少なくなり、料理をする時も便利アイテムを使うようになり、その帰結として醤油すら置いていない家がそれほど珍しくなくなっちゃったのです。
今は6期の令和ですが、まるで料理をしない=必然的に調味料が皆無の家と趣味が高じてマニアックな料理に勤しむ=やたら多様な調味料が置いてある家の二極化が進んでいるように見えます。
長々と書いちゃいましたが江戸後期に調味料を常備していなかった理由は男所帯で、そもそも料理ができる人がいなかったから。
食事は外食か中食(買って帰って家で食べるスタイル)に依存しておりました。
反面、平成、令和に調味料を常備していない理由は別に料理をしなくても手軽に食事ができる選択肢が溢れているから。
加えてサラリーマンが時間に追われがちで流行り言葉で言うとコスパよりタイパを優先する人が増えたからだと思います。
とはいえ、仕事を上がって屋台を覗いたり荷売り屋で惣菜を買う江戸の男たちの姿と残業を終えて吉野家に立ち寄ったりスーパーで割引札の付いたお惣菜を物色する令和のサラリーマンは妙に酷似している気がするんですよね。
200年経っても何も変わってないじゃん(笑)
ともあれ、令和の今、あまり料理をしなくなった結果、実は家で簡単に作れちゃう料理をわざわざ買って帰って家計を圧迫するのはなんとももったいない話。
たとえばこの料理なんて段取り良くやれば10分以内に作れちゃいます。
諸物価高騰の折、お財布のひもを緩めないためにもぜひお試しあれ。
……。
なんて野暮なことを書かなくてもいずれまた、流行は一周回ってみんなが家で料理を作る時代が還ってくるのかな(笑)
【材料】(1人分)
-調理時間:9分-
- むき海老:50g
- 茄子(中サイズ):1本
- 揚げ油:適宜
- にんにく:ひとかけ
- 生姜:ひとかけ
- 刻み葱:5cm分
- 豆板醤:3g(小さじ1/2)
- ごま油:6g(大さじ1/2)
[下味パート]
- 酒:5g(小さじ1)
- 片栗粉:3g(小さじ1)
[調味料パート]
- 水:80g(80ml)
- 鶏ガラスープの素:小さじ1/2
- トマトケチャップ:10g(大さじ1)
- 砂糖:3g(小匙1)
- 塩:ひとつまみ
【作り方】
- 揚げ油を180度に温めます。待っている間に茄子のがくを取り、横半分に切って更に8つ割りにします。にんにく、生姜はみじん切りに。海老には[下味パート]の酒をふり、片栗粉をまぶしておきます。[調味料パート]を合わせてよく混ぜておきます。
- 揚げ油が温まったら茄子を加えて2分素揚げし、引き上げて良く油を切ります。
- 中華鍋かフライパンにごま油、豆板醤、にんにく、生姜、刻み葱を入れ、中火にかけて香りが立つまで炒めます。
- 3.に[調味料パート]を加えてひと煮立ちさせます。これに海老と茄子を加えてよく和えながらとろみが付くまで煮詰めればできあがり。
【一口メモ】
- むき海老が少し残っていたので海老チリにでもするかと思ったのですが明らかにボリュームが足りなかった。そこで揚げ茄子をプラスしてこうなりました。なんか麻婆茄子と海老チリの良いとこ取りみたい。ボリューム満点で食べ応えありますよ。
- このレシピの段取りポイントは茄子を上げ終わるまでの4分間(揚げ油を温めるのに2分、揚げるのに2分)で工程1で記した下ごしらえを済ませておくことです。そうすれば工程3.の炒め以降の作業で手を止めることなく進められて手早く料理を仕上げることができます。
- 海老チリや酢豚のような料理は市販の「〇〇の素」的な合わせ調味料を買ってこないと作れないと考えがちですが、実は家にあるありふれた調味料を合わせることで手作りできてしまいます。あくまでも「〇〇の素」は調味料を合わせて混ぜる手間を省いてくれるアイテムだと覚えておきましょう。