ミステリー小説を書く上で作者が一番頭を悩ませるのは奇抜なトリックの考案などではなくこれじゃないかなと思う時があります。
『どうやって読者に犯人を当てられないようにするか』
なんかメタな発言っぽく聞こえるかもですがラストにあっと驚く結末が待っていないと読者にその本を壁に投げつけられるだけじゃありません。
次から本を買ってもらえなくなるかもしれないのでかなり切実な問題だと思うんですよね。
だからと言って最後の数ページで登場した人物や読者がすっかり忘れていたような登場人物を指して「お前が犯人だ」なんてやった日には壁にぶつけるどころかその本は八つ裂きの刑に……いや、なんでもありません。
あくまでも真犯人は最初の頃から登場していて読者の記憶にばっちりとどまっている人物でなければ意外な結末は演出できないのです。
それを前提条件とした上で読者の目をそらす手法はいくつかあります。
最も古典的な手段は他に怪しい登場人物を出してそちらに目を向かせることでしょうか。
けど、ミステリーを読み慣らした読者にはこの手はまず通じません。
「こんな怪しいやつが犯人のはずがない」なんてひねくれたことを考えるのがミステリー読みの性なのです。
いや、現実世界では怪しいやつがたいてい犯人なんですけどねw
やはり読者の目を逸らすのに有効な手段は「そこにいるのに読者が無意識(あるいは意識的に)容疑者リストから外してしまう」ように仕向ける技法じゃないでしょうか。
たとえば判官びいきを逆手に取る手法。
村で誰もがもてあましていた不良少年が都会へ出ていき二十年後に誠実なサラリーマンになって帰郷する。
が、彼を待ち受けていたかのように村内で事件が発生。
誰もがあいつが犯人だと指弾し、件の青年が窮地に陥る。
たった一人探偵役だけが「僕が君を救ってみせる」と立ち上がる。
が、真相は……
やはりその青年が犯人だった。
この技法の巧いところは探偵役の言動は正しいという読者心理を逆手に取っているところです。
探偵役は最初から青年以外に犯人がいる前提で動き始めるので読者は容疑者リストから青年を外しちゃうんですよね。
あるいは「まさかこいつは犯人じゃないだろう」と勝手に思い込ませる手法。
古典ミステリー何度か見かけましたが小学校に上がるかそこらの子供が連続殺人犯なんてのはその最たるもののひとつだと思います。
で、何が言いたかったかというと冬瓜の話です。
夏になるとよく見かける野菜ですが煮物にして食べるしかないと僕は思い込んでいて「汎用性がないなぁ」と敬遠していたのです。
生でも良し、焼いて良し、煮て良し、揚げて良しなんて食材はごまんとありますから。
けど本当にそうなのか?
過日、安かったのでつい買ってしまった冬瓜を改めて疑いの目で見直してみました。
本当にこの野菜は煮物しか使い道はないのか──?
それ以外の犯行は実行不可能か?(って、犯行って何?)読者自ら容疑者のリストから真犯人を外させる──その企みが敗れた時点で作者の負け。
一度その人物に疑いを向けた読者はあっという間に真相に気づいてしまうものです。
実はサラダにも、天ぷらにも、そしてスープにも冬瓜は使えるじゃんと僕が気づくのにさほどの時間はかかりませんでした。
【材料】(1人分)
-調理時間:25分-
- 豚肉(部位はあり合わせでミンチでも可):50g
- 冬瓜:1/4個を更に2cm分切ったくらいの量
- 茸類(今回はひらたけ):適宜
- 生姜:スライス1枚
- ごま油:4g(小匙1)
- 水:300g(カップ1.5)
- 中華スープの素:6g
- ホワイトペッパー:少々
- 水溶き片栗粉:9g分
- 卵:1個
【作り方】
- 冬瓜を下茹でする湯(分量外)を沸かします。待っている間に冬瓜は厚目に皮を剥いてワタや種を残したまま食べやすい大きさに切ります。湯が沸いたら7分茹でて湯切りしておきます。 ※実は煮てしまえばワタも種も食べられるのです。しかも種は栄養満点。但し、カリウムを多く含みますので食事制限のある方は注意しましょう。
- 1.と並行して豚肉と茸類は食べやすい大きさに切ります。生姜は千切りにします。小鍋にごま油を入れて弱火にかけ生姜を加えて香りが立つまで炒めます。これに豚肉、茸類を加えて中火で肉の色が変わるまで炒めます。更に1.を加えて1分炒めます。
- 2.に水、中華スープの素を加えてひと煮立ちさせたらホワイトペッパーを振って中火で10分煮込みます。待っている間に卵をよく溶いておきます。
- 3.に水溶き片栗粉を加えてとろみを付け卵を3回程度に分けて加えます。この際、卵に火が通って浮いてくるのを確認してから卵液を追い足しましょう。菜箸でざっと混ぜて卵をほぐせばできあがり。
【一口メモ】
- ほっと気分がほぐれるような優しい味のスープです。しかも栄養満点。夏におススメの野菜スープですよ。
- 冬瓜は下茹ですると味の染みがぐんと良くなります。面倒がらずにひと手間かけましょう。あと剥いた皮は千切りにしたらきんぴらにして食べられますよ。
- 豚肉は鶏の胸肉やささみにしても美味しく作れます。あと、人参などあり合わせの野菜を加えると栄養価が増えるだけでなく彩りや風味も華やかになります。