「一眼国」という落語噺があります。
江戸に住む香具師が旅の六部から旅先で経験した恐ろしい話を聞きます。
江戸からずっと離れた原っぱで目がひとつの女の子を見たというのです。
山っ気のあるその香具師は「よし、その女の子を捕まえて来て見世物で一儲けしてやろう」と考えます。
六部から教わった道を歩いていくと聞いていた通りの原っぱに出てそこに本当に一つ目の女の子が立っておりました。
香具師はそろそろと女の子に近づいて行ってパッと抱え込むと走り出そうとしたのですが彼女が大きな声で助けを呼んだからたまらない。
あたりからわらわらと村人たちが飛び出してきて香具師は逆に捕まってお奉行所に突き出されてしまいます。
「娘をかどわかそうとしたのはお前か。面を上げよ」
お奉行様の声に香具師が顔を上げると彼を捕らえた村人が頓狂な声を上げました。
「お奉行様、こいつ目が二つあります」
「何、これは面妖な。よし調べは後だ。さっそく見世物にだせ」
お奉行様を筆頭にその村の住人は全員一つ目だったのです。
なかなか含蓄のある噺ですね。
僕らが当たり前だと思っていることはよそでは常識ではないかもしれません。
一つ目の人ばかりが住む国なら二つ目の僕らはさぞ珍しいことでしょう。
かつて速水もこみちがやっていた料理番組『MOCO'Sキッチン』の調理内容に問題があるとの意見がBPOに寄せられたことがあります。
曰く「オリーブオイルを使い過ぎる」……。
いや、大きなお世話でしょ。
と僕なんかは思いました。
別にもこみち君は視聴者に作ることも食べることも強制しているわけじゃありません。
料理の紹介をしているだけです。
油を多く使うから体に悪そうと思うなら作らなければよろしい。
それに大騒ぎした人たちは問題になったアヒージョがどんな料理かをよく知らなかったんじゃないかしらんと思える節があります。
アヒージョは出汁の利いたオリーブオイルを楽しむスペイン料理で元々たっぷり油を使うのが特徴。
オリーブオイルをたっぷり使うのはもこみち流アレンジでもなんでもないのです。
僕らが知らないだけで世界にはそういう料理もあるんだなと理解すれば良い話な気がしますね。
逆に天ぷらという料理を知らない外国人が調理しているところを見れば使っている油の量にドン引きするでしょう。
お互い様だと思います。
とまれアヒージョは油をたっぷり使う料理です。
そしてね、体に良いかどうかは知らないけれどオリーブオイルの美味しさを再認識させてくれる料理でもあります。
ということで今宵はスペインバル気分。
情熱の国のオイル煮をぜひお試しあれ。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- 鶏ハツ:100g
- エリンギ:1本
- オリーブオイル(炒め用):6g(大匙1/2)
- オリーブオイル(煮込み用):18g(大匙1.5)
- にんにく:ひとかけ
- 鷹の爪:半本
- 塩:ひとつまみ
- ブラックペッパー:少々
- ナンプラー:6g(小匙1)
【作り方】
- 鶏ハツは4等分し血合いを取り除いておきます。エリンギは細切りにします。にんにくは厚めにスライスします。鷹の爪はキッチンバサミで小口切りにします。
- フライパンにオリーブオイル(炒め用)とにんにく、鷹の爪を入れて弱火にかけます。香りが立ってきたら鶏ハツ、エリンギを加えて中火にし、肉の色が変わるまで炒めます。
- 2.に塩ひとつまみとブラックペッパーを振りオリーブオイル(煮込み用)を加えて3分煮こみます。
- 3.にナンプラーを加えてさっと混ぜればできあがり。
【一口メモ】
- オリーブオイルってこんなに旨味があるんだと感動できる一皿です。もったいないと思わずぜひたっぷり使ってみてくださいな。
- アヒージョに使われる主食材はタコがメジャーですが弾力のある食感の鶏ハツでも良い感じに作れます。元々臭みの少ない部位ですがナンプラーのクセのある風味も相まって全く違和感のない料理に仕上がりました。
- 一般的なアヒージョはアンチョビを使ってクセのある塩気を付けます。ただ日本の食材ならイカの塩辛、アジアンフードならニョクマムやナンプラーを使っても違和感なく作れます。アンチョビが家にないのならわざわざ買ってくるのももったいないので家にあるものでトライしてみてください。