河豚は食いたし命は惜しし──なんて言葉があります。
快楽は得たいけど、後の祟りが怖いのでなかなか踏ん切りがつかないといったほどの意味です。

ただ、言葉通りに捉えれば「他にも美味しいものはいくらでもあるのに、たかが食べ物のために命を天秤にかけるなんて馬鹿じゃね?」なんてツッコミも成立しそうです。
そんな危険な食べ物なら、いっそ食用禁止にしてしまえば良いんじゃないの?なんて考えてちょっと歴史を調べてみると、案外、本当に食用禁止だった時期はあったようです。
まず、豊臣秀吉が中毒者続出を憂慮して「河豚食禁止令」を発令。

続く江戸時代も河豚食禁止を継続した藩は多く、面白いことに名産地の長州藩も禁止だったらしい。
河豚が解禁されたのは明治以降、火つけ人は同じく長州の伊藤博文公。
食べた河豚があんまり美味しかったので解禁しちゃった。
それが全国に広がるきっかけになったとか。
"好物"にはそれだけ、抗えない魔力のようなものがあるのでしょう。

そしてその魔力が自分の命と好物を天秤にかけても構わないと思えるほど強い場合は──そもそも、禁止令なんて無意味なのかもしれませんね。
アメリカの禁酒法時代にも、非合法に酒を供する「スピークイージー(Speakeasy)」と呼ばれる闇酒場が存在しましたし、くだんの河豚食禁止令が出された江戸時代にも、庶民の間では「鉄砲」という隠語で呼び交わして密かに食べられていたとか。

「そんな何百年も前の話を聞かされてもピンと来ないな」
と思う方は自分ごとに置き換えてみてください。
ある日、突然「ハンバーグ飲食禁止令」が発布されたら──ハンバーグ大好きな人からしたら暴動を起こしたくなるような衝撃ですよね。
唐揚げ禁止令、ラーメン禁止令、アイスクリーム禁止令など、なんでも構いません。

自分の大好物に置き換えれば、河豚好きな人にとってどれほどショックな出来事だったか容易に想像できると思います。
歴史は繰り返すと言いますが、土佐藩主に就任した山内一豊も、庶民の健康を思うあまり「かつおの生食禁止令(食べるなら火を通して食べよ)」を出したと言われています。
そのお触れを聞いた庶民たちは藩主の深慮に感服……
するはずもなく、どっちかというと激怒したらしい。
「かつおの刺身が食べられないなんて、これから俺らは何を楽しみに生きていけば良いんだ」

なんて考えたんでしょうね。
けど、お触れには逆らえない。
お触れに逆らわずに刺し身を食べる方法はないものか──
いろいろ知恵を絞って思い付いたのが、かつおの表面だけ炙って焼けているように見せかけて、切ったら中身は生の刺身というフェイク──「たたき」という調理法の爆誕でした。

山内一豊がお触れを出したという資料は発見されていないので、これはあくまでも「かつおのたたき誕生秘話」的な逸話に過ぎないらしいのですが、好物のためならそこまでやるかという好例としてなかなか愉快な話だと思います。
けど、当時の漁師たちも、400年後に、くだんの「かつおのたたき」がこんな小洒落た料理にアレンジされるようになっているとは、夢にも思わなかったでしょうね。
【材料】(1人分)
-調理時間:6分-
- かつおのたたき(さく):100g
- きゅうり:半本
- (あれば)イタリアンパセリまたは三つ葉:少々
[ソースパート]
- 濃口醤油:9g(大さじ1/2)
- バルサミコ酢:7.5g(大さじ1/2)
- オリーブオイル:4g(小さじ1)
- 砂糖:3g(小さじ1)
- 豆板醤:3g(小さじ1/2)
- 粗挽きブラックペッパー:少々
【作り方】
- きゅうりは5mm角の賽の目切りにします。[ソースパート]を合わせてよく混ぜ、これにきゅうりを加えてざっくり混ぜます。
- かつおのたたきを5mm厚にスライスし、皿に盛りつけます。その上から1.を回しかければできあがり。手持ちがあれば、粗く刻んだイタリアンパセリまたは三つ葉をトッピングしましょう。
【一口メモ】
- 味の主軸は醤油なのですが、ちょっと洋風に寄せたソースに仕立ててみました。合わせるお酒は日本酒でも良いのですが白ワインあたりがよく合いそうです。
- このソースはかつおのたたきに限らず刺身全般に応用できます。和風の肴に飽きた時に知っておくと重宝するレシピですよ。
- 風味を重視するのであれば、きゅうり以外に粗みじん切りした茗荷や生姜など薬味系の野菜を1.に加えてください。仕上げに刻み海苔や炒りごまを散らすのもありですよ。

