僕が大学生だった1980年代はちょっとしたオーディオブームでした。
70年代に登場したカセットテープが本格的に普及しだして音楽は「聴く」から「録る」時代にシフトした頃の話です。
従来からあったコンポーネントステレオ(通称:コンポ)をコンパクトにしたミニコンポが登場して大ブームとなりました。
ラジカセを遥かに凌駕する音質が魅力的で小さなスペースに収納できるのにレコードプレーヤー、カセットレコーダー、アンプ、グラフィックイコライザー(通称:グライコ)なども付いておりました。
その未来的なフォルムの格好良さに痺れて僕もせっせとアルバイトをして買いましたっけ。
部屋の4隅にスピーカーを配置して初めて鳴らした音響の迫力には感動したなぁ。
やっぱりラジカセとは段違いだぜなんて思いました。
ところが──ところがですよ。
1週間ほどするとその感動が潮のように引いてド迫力の音響も「なんか普通」としか感じられなくなっちゃったのです。
つまりは、その音に慣れてしまったんですよね。
どんな感動的な体験もそれが日常的になれば慣れて当たり前にしか感じられなくなるものです。
世界で初めて自動車が走った日。
機関車が走った日。
飛行機が飛んだ日。
その日は誰もが目の前の光景に熱狂したはずなのに今、自動車や電車や飛行機を見かけても興奮する人はいません。
結婚式の日にはあんなにキラキラしていたカップルもやがては倦怠期を迎えるものなのです(をいw)。
それは料理の世界でも同じこと。
初めて入るお店でメニューをめくる時はどの料理も目新しく感じられてついついいろいろ頼んでしまったりしていたのに──その店が馴染みの店になればなるほど頼む料理はいつも同じ。
その味にも新鮮味が感じられなくなるのは致し方ないことだと思います。
マンネリ──そんなネガティブ・ワードを打破すべく店主は知恵を絞ります。
四季折々の旬の食材を仕入れて季節メニューをこしらえてみたり。
和風居酒屋で洋食っぽい料理を、バルでは和のテイストな小鉢料理を、敢えて店のコンセプトから外れた新メニューで目先を変えてみたり。
珍しい食材が手に入れば売り切れ御免の限定メニューに仕立ててみたり。
常連客でもついついめくってみたくなるメニュー作りに店主は余念がないのです。
例えば焼鳥屋さんではおなじみのハツ──鶏の心臓もいつものタレ漬け&串焼きだけではつまらない。
ちょっと賄い料理っぽい焼き物が案外お客にウケたりするかもしれない──なんて考えて今日もどこかの居酒屋でこんな料理がお披露目されているかもしれません。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- 鶏ハツ(心臓):100g
- 塩、ブラックペッパー:少々
- サラダ油:4g(小匙1)
- ポン酢醤油:10g(小匙2)
- 刻み葱:適宜
【作り方】
- 鶏ハツは縦に切り目を入れて開き包丁の刃先で血合いをこそぎ取って流水で洗います。キッチンペーパーで水分を拭き取って塩、ブラックペッパーをまぶします。
- フライパンにサラダ油を入れて中火にかけます。これに1.を重ならないように並べて片面2分、ひっくり返して更に2分焼きます。
- 小ぶりのボウルに熱々の2.を入れてポン酢?油を回しがけよく和えます。
- 3.を器に盛って刻み葱を散らせばできあがり。
【一口メモ】
- ポン酢のさっぱり感が脂肪分の多いハツとよく合います。甘辛いタレで焼くのが定石と思い込んでいたのでこれは嬉しい不意打ち。目から鱗が落ちた気分です。
- 炒め油にサラダ油を使っていますがごま油やオリーブオイルを使うとまた風味が変わって楽しいですよ。
- ポン酢がさっぱり風味なので清涼感のある薬味が良く合います。針生姜、糸きりした大葉、セリや三つ葉など手持ちと相談しながらいろいろ試してみてください。