ミステリー小説で犯罪の目撃者を錯誤させるトリックのひとつに「見えない人」というのがあります。
ネタばれになっちゃいますが古典的な名作だと新婚旅行で豪華客船に乗船した夫婦の夫が失踪する話なんかがあります。
必死に夫を探す花嫁が船員たちに「私たち夫婦が乗り込むところを見ていましたよね」と訊ねるのですが誰もが口をそろえてこういうのです。
「いえ、あなたは一人で乗船されましたよ」
それだけでぞっとするような話ですが真相はもっとぞっとするような話でした。
実は彼女の夫は端から彼女を保険金目当てに殺害する計画。
居もしない夫を探して甲板をフラフラ歩いていた女性が海に落ちちゃったという体で彼女を突き落とすつもりだったのです。
船員たちは口をそろえて「彼女はちょっとおかしかった」と証言してくれることでしょう。
そんな彼の職業は──この船の乗員でした。
スタッフたちは間違いなく彼女と並んで男が乗り込んで来るのを見ています。
けれど、それは私服を着た同僚ですから乗客にはカウントされず「彼女は一人で乗船した」と認識しちゃうのです。
今振り返っても古びていないトリックだなぁ。
すぐそこに、目の前にいるのに(あるのに)気づかないものって世の中には案外ある気がします。
以前、トンカツを食べたいけど卵を切らしているという状況でネットを調べたらこんな情報を見つけました。
「マヨネーズを使いなさい」
マヨネーズの主原料は卵と油と酢と塩。
卵に浸けて油で揚げるトンカツが必要とする材料が全部そろっているのです。
けど、冷蔵庫を開けて「卵がないじゃん」ってパニクっている時にマヨネーズに目が行く人はそうそういませんよね。
過日、サバが安かったので購入。
鯖味噌や塩焼きに飽きていたので柚庵焼きにでもしたいなと思いました。
柚庵焼きは食材を醤油と柚子の果汁に漬け込んでから焼く料理。
けど、柚子果汁を切らしている。
代用品としてポッカレモンでも使うかと冷蔵庫を覗いたのですが……
ポン酢醤油があるじゃん!
そう。うちのポン酢醤油は柚子果汁に醤油を合わせた調味料。
ご丁寧にボトルには柚子のイラストまで描いてあるのにすぐには気づきませなんだ。
ということで見えない人を発見した名探偵みたいな上々の気分でその夜は柚庵焼きを堪能しました。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- 鯖:半身
[漬け汁パート]
- ポン酢醤油:18g(大匙1)
- 味醂:18g(大匙1)
- 酒:15g(大匙1)
【作り方】
- 鯖を食べやすい大きさに切り骨抜きをします。[漬け汁パート]を合わせてよく混ぜます。鯖をバットに並べて[漬け汁パート]をかけ上からラップをかけて圧着します。これを冷蔵庫に入れて2時間漬け込みます。 ※時間に余裕があれば一晩漬けこむと更に味がしっかり付いて美味しいです。
- 1.の水気を切って魚焼きのグリルで身を上にして数分焼きひっくり返して2分焼けばできあがり。オーブンのグリルを使う場合は天板にクッキングシートを敷いて焼きましょう。 ※焦げやすいのでちょくちょく様子を見て焼き時間を加減してください。
【一口メモ】
- 柚子の清々しい香りが魅力的な焼き物です。脂の乗った鯖が不思議なくらいあっさり感じられて箸が進みますよ。
- 「海は身から川は皮から」と言われ海水魚は身から淡水魚は皮から焼くのがセオリーです。これは一般に淡水魚は皮が厚くしっかりしているので皮から焼いて皮周辺の身に火を通してから身を焼く、逆に皮が薄くて火の通りが早い海水魚は身から焼いても皮周辺まですぐ火が通るのと皮が焦げやすいから軽く焼くだけにするということから来ています。鯖は海水魚なので身から焼きましょう。皮は焦げやすいので軽く炙る程度に。
- ポン酢醤油の代わりにレモン果汁に醤油を合わせて漬け込むと風味が変わってまた楽しいですよ。