「バジル氏の優雅な生活」は19世紀ロンドンの社交界を舞台に貴族の生活をコミカルに描いた坂田靖子さんの代表作的漫画作品です。
1話完結の短編連作形式なのですが、その中のひとつにこんなエピソードがありました。
ロンドン一の美食家を自負する男が街で知り合った文無しの男に「君が想像だにしたこともない料理をご馳走しよう」と家に招き入れます。
その日はずっと楽しみにしていた「孔雀の舌のスープ」が食べられる日だったのです。
ところが、招かれた男はひとくち食べて「タコのスープはいいや」と言ってしまいます。
「いや、君にはタコに見えるかもしれんがこれは孔雀の舌を使ったスープでね」と美食家は説明しますが男は尚も「だって、これタコだぜ」と言います。
とうとう美食家は怒って男を追い出すのですが後で妻に言われます。
「あれ、タコですわよ。料理人たちがそう言ってましたもの」
面目丸つぶれの美食家は食材を売りつけた業者を訴えると息巻きますが妻には
「良いじゃありませんか。あなた、どうせタコと孔雀の舌の区別なんかつかないんでしょ」
と冷たくあしらわれてしまいます。
この話には続きがあって、実は文無しの男は財布を落としただけでその正体はアメリカの金鉱成金。
過去に何度か孔雀の舌のスープを食べたことがあったので一口飲んで本物じゃないと見抜いたのですというオチが付きます。
長く生きていると大概のものは食べたことがあると錯覚することもありますが、まだまだ世界には自分の食べたことがない食材や料理があるんだろうなぁと感じさせるエピソードでした。
たとえば、さわらの白子──これも五十数年生きてきて初めて食べる食材だったりするのです。
【材料】(2人分)
-調理時間:20分-
- さわらの白子:1腹
- 塩:3g(小匙1/2)
- 大根おろし:2cm分
- 一味唐辛子:適宜
- ポン酢:適宜
- 刻みネギ:少々
【作り方】
- さわらの白子に塩を振り10分置きます。これを流水で優しく洗ってぬめりを取り血筋を取ります。並行してお湯(分量外)を小鍋に沸かしておきます。更に大根おろしと一味唐辛子を和えてもみじおろしを作っておきます。 ※お湯は霜降り用と茹でる用に使うので心持ち多めに沸かしてください。
- 1.の白子をザルに載せて熱湯をかけ霜降りにします。これを一口大のぶつ切りにして1.で沸かしておいたお湯に入れて弱火で5分煮ます。
- 2.を穴あきお玉で掬ってザルに揚げキッチンペーパーで水気を切ります。これを器に盛り、もみじおろしを載せて上からポン酢をかけネギを散らせばできあがり。
【一口メモ】
- とろっと口の中でとろける不思議な触感が楽しめます。そして濃厚な海の風味。いわゆる珍味に属する料理だと思いますがなんだかとてもぜいたくな気分に浸れました。
- 以前、鮭の白子を天ぷらにしたことがあるのですがこれもイケそう。今度やってみようかな。
- 美味しんぼのエピソードに河豚の白子に似たものというので羊の脳みそが挙げられていました。ホント、世界にはまだまだ食べたことのないものがたくさんあるんでしょうねぇ。