一休さんのとんち話の中に和尚さんが村人から水あめをもらってくる話があります。
「これは大人には薬だが子供には毒になる。ゆめゆめ食べないように」
と言い含めて和尚さんは出かけるのですが一休さんは仲間の小僧さんを呼んでみんなで水あめを平らげてしまいます。
その上で和尚さんが戻ってくる頃合いを見計らって和尚さんが大事にしていた茶碗を割ってしまいました。
寺に帰ってきた和尚さんはわんわん泣いている一休さんを見とがめてどうしたのかと訊ねます。
すると一休さんは
「和尚さんが大事にしていた茶碗を割ってしまいました。死んで詫びようと思い毒を煽ったのですが全部食べても死ねません」
と答えましたとさ。
子供の頃、僕はこの話が嫌いでした。
大事にしていた茶碗も水飴もなくしてしまった和尚さんが気の毒でそれを見ている一休さんのドヤ顔が目に浮かぶようで「なんていやらしいやつなんだ」と一休さんに反感を抱いたものです。
けど、長じて考えが少し変わりました。
よく考えたら最初に嘘をついたのは和尚さんじゃん。
水あめを独り占めしたくて小僧さん達を欺いたんじゃん。
一休さんがとんちを利かせなければ小僧さんたちは和尚さんが旨そうに水あめを食べるのを指をくわえて見ているだけだったわけで、一休さんが茶碗を割ったのはそんな和尚さんの嘘に対するささやかな仏罰(ぶつばつ)だったと考えれば納得がいきました。
ともあれ、高徳な宗教家ですら美味しいものを前にしては時に子供のような方便を使うことがあります。
日本でも酒を禁じられたお坊さんが酒を般若湯と呼んで
「これは修行に役立つ薬だから」
と言って飲んだとか、
4つ足の動物を食べることは禁じられていたのにどうしてもウサギ肉が食べたくて
「あれは鳥だからOK。耳に見えるのが羽なのじゃ」
なんて子供のような詭弁を使ったなんて話を聞きます。
おかげでウサギは今でも一羽、二羽と数える慣習なんですよね。
そんなしょうもないことをするのは日本の坊主だけかと思っていたらそんなことはなく、キリスト教では四旬節など特別な期間は「魚は良いけど肉は食べちゃダメ」という戒律があるらしい。
けれど、
「ビーバーは水中で暮らしているから魚なのだ。だからOK」
と強弁したとか。
あるいは16世紀、南米ベネズエラでは「カピパラも魚ということでOK?」という打診をわざわざバチカンに問い合わせて「OKです」という返事をもらったなんて記録もあるようです。
もしも、ウサギやビーバーやカピパラが人語を解していたら
「こいつら何言ってんだ? 頭大丈夫か?」
って顔をしたことでしょう(笑)
所詮、戒律は、人間が理性によって欲望を抑えることを前提に作られたものです。
そんなものが本能に依拠する"食い意地"に勝てるわけがない!
ずいぶん、空しいことをやっていたんだなぁなんて──そこまでしないと食べたいものも食べられないお坊さんたちをちょっと気の毒に思ったりもします。
仏教の戒律には4つ足の動物以外に五薫と呼ばれる香りの強い野菜も避けるべき]とされています。
その五つの野菜とは──ねぎ、にら、らっきょう、にんにく、玉ねぎ。
さしずめ、この美味しそうな匂いのする料理をどうしても食べたくなったらまた何かへんてこな言い訳を発明しないといけなかったんでしょうね。
さて、ニラやにんにくは鳥でしょうか。魚でしょうか(笑)。
そんな戒律を乗り越えてでも食べたくなるような、スタミナ満点の料理をご紹介します。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- 豚ローススライス:80~100g
- 片栗粉:3g(小さじ1)
- 玉ねぎ:1/4個(小玉なら1/2個)
- ニラ:1/4束
- にんにく:ひとかけ
- サラダ油:4g(小さじ1)
[調味料パート]
- 濃口醤油:12g(小さじ2)
- 味醂:12g(小さじ2)
- 鶏がらスープの素:1.5g(小さじ1/2)
- 豆板醤:3g(小さじ1/2)
- 砂糖:3g(小さじ1)
【作り方】
- 豚肉は3~4等分にして、片栗粉を薄くまぶします。玉ねぎは細切りにします。ニラは3cm幅の小口切りにします。にんにくはみじん切りにします。
- フライパンにサラダ油とにんにくを入れて弱火にかけます。香りが立ってきたら豚肉を加えて中火にし、肉の色が変わるまで炒めます。更に玉ねぎを加えて1分炒めます。
- 2.に[調味料パート]とにらを加えて[調味料パート]を絡めながら炒め、ニラがしんなりして水気がほぼなくなればできあがり。
【一口メモ】
- ガッツリ系の中華炒めです。ニラとにんにくの香りに食欲をそそられてお肉の量は多少しょぼくても満足感ははんぱない1皿なのです。
- 匂いが気にならない方はできればにんにくはたっぷりめ2かけ分くらい入れてみてください。強烈な香りにくらくらしながらそれでもヤミツキになっちゃいますよ。
- よく考えるとこのレシピの材料は餃子の皮を剥がして中身だけ炒めたものなんですよね。なので餃子が大好きという方には特にたまらない料理だと思います。