倉知淳の短編連作ミステリーに「猫丸先輩」シリーズというのがあります。
フリーターで毎話、登場する度にやっている仕事が変わっている猫丸先輩が探偵役。
その飄々とした風体に似つかわしくない鋭い推理で身の回りの謎を解き明かしていくお話なのですが、ライトな文体が魅力的で僕のお気に入りのミステリーのひとつです。
シリーズの一作、「猫丸先輩の空論」に大食いの女の子が登場する話があります。

可愛らしい見た目に反してとんでもない大食い、早食い。
そんなスキルを持つ彼女はなぜ焼肉のチャレンジメニューを前にして逃亡したのか──というのが本作が提示する謎です。
けど、そんな本題よりも同作の冒頭で彼女が巨大なラーメン(30分で食べ切ったらタダになるやつ)を平らげるシーンに僕は目を奪われました。

ガタイの良いプロレスラーでも無理と思われる巨大なラーメンに彼女が箸を付けた途端、まるで魔法のように分厚い叉焼が、てんこ盛りのもやしが、麺が、スープが消えていく様の描写は文章だけでここまでビジュアルを想起させられるんだと舌を巻きました。
これと似たキャラの少女がアニメにもいましたね。
2016年にオンエアされた「三者三葉」。
タイトルが示すように3人のヒロインたちが織り成す学園生活を描いた作品ですが、ヒロインの一人、小田切双葉が大食いキャラでした。
いつも何か食べているのですがクッションか枕かよってサイズのパンをもぐもぐ食べている様子はインパクトがあったなぁ。

このように創作の世界の大食い、早食い描写はある種の爽快感を感じるほどで見ていて楽しいのですが現実の世界では──ドン引きすることもしばしばあります。
言ってしまえば大相撲中継をテレビで観ている分には気にならないけど、ホテルのエレベータで本物の力士が2、3人先に乗り合わせたみたいな状態でしょうか。
狭い籠の中であの巨体と同居を余儀なくされるひとときは恐怖以外の何物でもないと思うのです。
大学時代、駅前の中華料理屋がとにかく量が多いことで有名でした。

別に「30分で食べ切ったらタダ」みたいなキャンペーンを張っていたわけではなくそれがその店の普通だったみたい。
例えば定食を頼むと洗面器サイズの皿に盛られたライスと洗面器サイズの皿になみなみと注がれたスープが出されます。
ここまでが前座。
その後、メインのおかずの調理が完了して提供されるのですが盛られる器は洗面器より一回り大きいサイズというお約束すぎる展開になります。
「初心者はまず豚天から入るべし」
という不文律があって中で一番食べられそうなメニューが先輩から後輩に口伝されていたのですがある時、一人の先輩が無謀にも酢豚定食を頼んだらしい。

つややかな餡に包まれた揚げ豚は子供の握りこぶしサイズだったと伝えられていますが……
その先輩は翌日から入院する憂き目に遭いました。

ホント、お約束すぎる展開だったなぁ(笑)
僕もあの頃はそこそこ健啖でしたが、それでもその話を聞いて及び腰になり、ついにその店の暖簾をくぐることはありませんでした。
風の便りによれば完食できる体育会系サークルの学生も減ってしまい。
今では(普通盛りの)うどん屋さんに転じてそれなりに繁盛しているそうな。

昭和は遠くなりにけりって感じかな。
過日、見るからにスタミナ満点のこんなラーメンを作りました。
盛りは別に大盛りではないのですがニラとにんにく満載なので食べた後の満足感はハンパない。
かつての健啖な学生も今ではすっかり胃が小さくなった60過ぎのおっさん。

今の僕にはこれくらいが丁度良いなぁとしみじみ思った次第です。
【材料】(1人分)
-調理時間:13分-
- 袋入りラーメン(醤油味):1食分
- 豚バラスライス:50g 豚ローススライスでも可
- ニラ:半束
- にんにく:ひとかけ
- ごま油:6g(大さじ1/2)
- (あれば)糸唐辛子:少々
[スープパート]
- 熱湯:ラーメンに記載の規定量の半分
- ラーメン添付の粉末スープ:1/2袋
- オイスターソース:9g(大さじ1/2)
- 塩:1g(小さじ1/6)
- ブラックペッパー:少々
- 豆板醤:3g(小さじ1/2)
【作り方】
- 豚肉は食べやすい大きさに切ります。ニラは3cm幅の小口切りにします。にんにくは1mm厚のスライスにします。
- フライパンにニンニクとごま油を入れて中火にかけます。香りが立ってにんにくが色づき始めたら豚肉を加えて色が変わるまで炒めます。さらににらを加えてしんなりするまで炒めます。
- 2.のフライパンに[スープパート]を加えてひと煮立ちさせます。並行して別鍋に湯(分量外)を沸かし、麺を規定時間茹でます。
- 茹で上がった麺を湯切りして丼に移します。3.を煮立たたせてこの丼に注ぎ、糸唐辛子を散らせばできあがり。
【一口メモ】
- ニラとにんにくの香りがたまりません。ボリュームは普通でけっして大盛りラーメンなわけではないのですがガッツリ系の料理を食べた時のような満足感を味わえます。
- オイスターソースや塩など他の調味料も加えて塩分過多になるので作るスープの量は通常の半量にしてあります。残った粉末スープは炒飯の味付けなど別の料理に転用してください。
- 手持ちがあればニラと一緒に刻んだキムチを加えるのもおすすめです。酸味と辛味がプラスされて、さらにアップグレードされたガッツリ感が楽しめますよ。

