1986年から週刊ヤングジャンプに連載されていた漫画に「栄光なき天才たち」というのがありました。
偉業を成し遂げながら、不運なめぐりあわせなどで名を知られることもなく歴史の中に消えていった天才たちにフォーカスを当てた偉人伝です。
NHKのプロジェクトX的なテイストのストーリーがけっこう僕好みだったな。
記念すべき一作目に登場したのはイライシャ・グレイ。
「それ、誰?」と言うなかれ。
電話機を発明した人ですよ。
「いやいや、電話機を発明したのはグラハム・ベルでしょ」と言われそうですが、重ねてそう言うなかれと申します。
本当に残念な経緯だったんですから。
電話機を発明した彼はその特許を申請しに特許局にやってきました。
彼が提出した書類を読んだ係官は仰天しました。
そして──「あの、……。たった、2時間前にこれと全く同じ申請範囲で特許が申請されています」と申し訳なさそうに彼に伝えました。
2時間前に特許を申請したのがグラハム・ベルだったんですね。
言っても仕方のないことですが、その時、電話さえあれば。
そして、その電話で特許の申請ができていれば。
この発明レースに勝ったのはイライシャ・グレイだったかもしれません。
けれど、現実にはたった2時間差で彼の特許が受理されることはなく、彼の名も歴史の彼方に忘れ去られていったのです。
料理や食べ物の世界でも似たようなことはあります。
「世界初のインスタントラーメンと言えば何?」と訊かれたら、多くの人が「日清のチキンラーメン」と答えるでしょう。
けれど、「じゃあ、2番目に発売されたインスタントラーメンは?」と訊かれても大半の人は「知るかいな」と言ってしまいそう。
ちなみに答えは「イトメンのチャンポンめん」。
イトメンは兵庫県たつの市にある食品会社ですが、チャンポンめんは今でも主力商品で、関西ではちょくちょく売られているのを見かけます。
うちの近所だとコープこうべで普通に売ってるな。
チャンポンめんはチキンラーメンが発売された1958年の5年後、1963年に発売されたということですからベルとイライシャ・グレイの2時間差に比べたらちょっと"惜しい感"は薄いかな。
けれど、この事例はチキンラーメンの方が先に発売されたのだから知名度が高くて当然と納得がいきますよね。
中にはそんなタイムレースで負けたわけでもないのになぜかイマイチ知られていない料理もありまして、そっちの方がよほど理不尽じゃんという気がするのです。
例えば、今日の料理「鶏肉飯」は台湾の夜市などで売られているめちゃポピュラーなご飯ものです。
ところが台湾料理を食べたことがある日本人に「台湾の屋台で食べられるご飯ものと言ったら何を思い浮かべる」と訊くとまず間違いなく「ルーローファン(魯肉飯)」という答えが返ってくる気がするんですよね。
なんでこんなに認知度が違うんだろ?ということで、”ジーローファン(鶏肉飯)”の知名度向上に貢献すべく、そのレシピをメモしておきます。
【材料】(1人分)
-調理時間:20分-
- ご飯:1膳分
- 鶏むね肉(皮付き):150g(半枚)
- 玉ねぎ:1/8個
- にんにく:ひとかけ
- (あれば)パクチー:適宜
- サラダ油:4g(小さじ1)
- 塩:少々
[ゆで汁パート]
- 水:200g(カップ1)
- 塩:2g(小さじ1/3)
- 紹興酒:15g(大さじ1)なければ同量の日本酒
- 生姜千切り:スライス1枚分
- 刻み葱:5cm分
- 八角(スターアニス):突起3片分
[タレパート]
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 砂糖:2g(小さじ1弱)
- 酢:2.5g(小さじ1/2)
- 粗びきブラックペッパー:少々
【作り方】
- [ゆで汁パート]を小鍋に入れてひと煮立ちさせます。これに鶏肉を加え、再度煮立ったらすぐに火を止めてそのまま10分置き、余熱で火を通します。待っている間に玉ねぎ、にんにくをみじん切りにします。 ※ゆで汁を煮立たせずに余熱で火を通すことで鶏肉の身が硬くならずしっとり仕上がります。
- 1.の鶏肉を取り出し、真ん中で切って芯まで火が通っていることを確認します。身が赤ければ[ゆで汁パート]に戻して弱火で温めて火を通します。[ゆで汁パート]はあとの工程で使うので取っておきます。
- 鶏肉の皮を剥いで粗みじん切りにします。フライパンにサラダ油、玉ねぎ、にんにく、鶏の皮を加えて中火で炒めます。玉ねぎ、にんにくに軽く色が付き始めたら[タレパート]とゆで汁30g(大さじ2)を加えて水気がほぼなくなってとろみが付くまで煮詰めます。 ※煮詰めすぎると焦げるので、しっかり見張っておきましょう。
- 鶏肉の身を細かく裂くようにほぐします。これをボウルに入れて塩少々を振り(分量外)、ゆで汁15g(大さじ1)を加えて絡めます。 ※鶏肉は大きめのフォーク2本を両手で持って裂くようにほぐすと楽ちんです。
- 器にご飯をよそい、鶏肉をその上に盛り付け3.のタレを回しかけます。手持ちがあればパクチーをトッピングしてできあがり。
【一口メモ】
- 淡白な鶏肉と甘辛いタレの組み合わせがクセになります。丼物というよりはご飯におかずを添えているイメージでお茶漬けのようにさらさらッと食べられます。
- 鶏肉飯(ジー・ロー・ファン)は台湾の小吃(シャオチー)の1種です。小吃は夜市の屋台などで売られている軽食ですね。日本では豚肉を使った「滷肉飯(ルーローファン)」がメジャーですが、こっちはイマイチ知名度が低い気がしたのでレシピを紹介しました。滷肉飯が肉を煮込むのに対して、こちらは茹でた鶏肉をご飯に載せてタレをかけるスタイルというのも好対照。食べる際にタレを鶏肉に絡める加減で味が変化して楽しいですよ。
- [タレパート]の風味の要は鶏の皮。じわっとにじみ出る鶏油(チーユ)の香りが食欲をかき立ててくれます。本式には[タレパート]に揚げエシャロットなどの香味野菜を加えるのですが、代わりにセロリの茎のみじん切りを加えても風味を複雑にできます。
- 残った[ゆで汁パート]は茸や野菜などを煮て鶏がらスープの素で味を調え、中華スープにしてしまいましょう。
- 付け合わせ的に添えるアイテムとしては漬物、特に沢庵などがおすすめです。おすすめの理由は味以外に色味が挙げられます。白いご飯、茶色の具材、緑のパクチー、そして黄色い沢庵を添えれば色の取り合わせがカラフルになるのです。
- 鶏肉はできればこのレシピに書いたくらい(半枚)使うとボリューミーなのですが、冷蔵庫に中途半端に残っているお肉をあるだけ使い切るというのでもOK。あくまでも、ご飯のトッピングなので量は臨機応変に調整できます。
- 老婆心ながら材料表の表記について補足します。[ゆで汁パート]に使う八角はホールで星型をしていて、「突起=鞘」が8つくらいついている香辛料です。この突起を3つくらい折って使ってください。