もしかしたら日本の多くの家庭がそうなのかもしれませんが僕の実家では汁物と言えば味噌汁のことを指しました。
日々の食卓に上る椀の中には実は様々でしたが味噌で味付けしたいりこ出汁のスープが入っているものと決まっていたのです(両親の実家は四国でなんでも出汁はいりこで挽くのが習わしな家でした)。
すまし汁が食卓に上ったことはついぞなく、あれはお祝い事などのごちそうに付いてくる特別な汁物と勝手に思い込んでいました。
そういえばまるで料理はできなかった父も味噌汁だけは作れるようでした。
それくらい日常に浸透していた普段着のスープだったのだと思います。
そういう風に育ったので長じて社会人になっても結婚をして家庭を持っても長らく僕はすまし汁を作ったことがありませんでした。
というかなんか高級そうで自分で作れるとは思っていなかった節があります。
今更ですが当時の僕は「すまし汁」と「お吸い物」を混同していたんですよね。
僕が高級そうと思い込んでいた懐石料理などに出て来る汁物は「お吸い物」と呼ばれる料理で「すまし汁」とは別物。
きちんとした作法があります。
お吸い物の中に入れる実(具材)は椀種(主役)、椀妻(相方)、吸い口(脇役(三枚目など))という3種類の役割を持ったものがしつらえられる決まりで、スープというよりは酒の肴として楽しむおかずとして供されるものです。
料亭でもこの椀物を作る椀方という職人は板場の花形でとっても難易度の高い調理技術が必要な役職なのです。
それに対してすまし汁は鰹や昆布の一番出汁に塩や醤油で味付けしたスープというだけで特に難しい作法は何もありません。
身もふたもない言い方をすれば鰹節で出汁を挽いて塩を振るか醤油を垂らせばできちゃいますので味噌汁よりずっと簡単なのです。
──なんて、知識を持つようになったのは横浜に単身赴任して本格的に日々の食事を自分に賄うようになってからだったんじゃないかな。
人間何事も他人事であるうちは関心が薄く、いざ自分で作らねばとなって初めて興味を持って勉強するものなのかもしれません。
とまれ、いまでは普段のランチでもわりと無造作にすまし汁をこしらえたりしています。
味噌でごまかせない分、出汁の善し悪しがストレートに味が決まる料理ですので良い出汁が挽けた日は気持ちが福福として午後からの元気がむくむく湧いてくるのです。
【材料】(1人分)
-調理時間:5分-
- ひらたけ:2、3本
[スープパート]
- 鶏むね肉の煮汁:200~250g(200~250ml)
- 昆布出汁の素:小匙1/2
- 塩:1g(小匙1/6)
- 濃口醤油:6g(小匙1)
- レモン果汁:5g(小匙1)
- おろし生姜:ひとかけ分
【作り方】
- [スープパート]を合わせてひと煮立ちさせます。 ※このレシピは鶏むね肉を茹でる主菜があることを前提にした副菜です。単独で作る場合は鶏むね肉の煮汁の代わりにかつお出汁を挽いて昆布出汁の素を合わせた合わせ出汁を使いましょう。
- 1.に小房にばらしたひらたけを加えて中火で3分煮ればできあがり。
【一口メモ】
- シンプルイズベスト! インスタント的に作れちゃうスープですがめちゃ旨い。出汁の力、醤油や塩といった調味料の力を感じる一品です。
- 鶏肉を茹でると煮汁が残ります。せっかく良い出汁が挽けているのに捨ててしまうのはもったいない。こんな風にすればちゃんと胃に収めることができるんですよ。
- 手持ちがあったのでひらたけを使いましたが実は野菜や茸ならなんでもありです。冷蔵庫の中身と相談して決めてください。
- 暑い盛りに作ったので涼味が欲しくてレモン果汁を加えました。冬場なら柚子に替えても楽しいですよ。あと、手持ちがあれば三つ葉を浮かべると香りが良くなります。