江戸時代の終盤、文化文政期(だいたい今から230年くらい前)を舞台にした人情グルメ小説「みをつくし料理帖」にところてんの話が出てきます。
時は夏。
料理人として雇われている蕎麦屋の老店主と町に出たヒロインが出店でところてんを注文するというシチュエーション。
彼女は老店主がところてんにかけようとしているものを見て驚愕します。
「何をかけてはりますのん?」
「何って生醤油じゃねぇか。ところてんと言やあ生醤油と決まってるだろ」
上方(関西)出身の彼女はふるふると首を振ります。
「なんでぇ。上方じゃどうやってところてんを食うんだ?」
訊ねる店主。
「上方ではお砂糖か黒蜜をかけて食べるもんだす」
本作にはちょいちょい江戸と上方での食文化の違い、食の嗜好の違いがクローズアップされますがこれもその一幕ですね。
誰しも「これ(この食材)はこうやって食べるもの」という先入観を持っています。
ましてやインターネットのない江戸時代。
よその土地の情報が一切入ってこない時代ならなおのこと。
多くの上方人は「砂糖をかけたところてんは良いお茶請けになるのう」と思い。
江戸っ子は「夏場にキリッと辛い醤油で食べるところてんはたまらねぇぜ」と思って生涯を過ごしたことでしょう。
それからおよそ230年後の令和。
インターネットが普及した今でも僕らは「これはこうやって食べるもの」という先入観を多く持っています。
たとえば鰤(ぶり)。
過日、いつものスーパーに行くと厚切りのぶりの切り身に半額札が付いておりました。
「あ、おせち用のやつが売れ残ったのかな」と推測。
もうお正月も終わってしまったなぁとしみじみ思いました。
で、衝動的にそのパックをかごに入れながら「今夜は照り焼き♪」なんて考えていたのです。
僕の中ではぶりの切り身は照り焼き。
アラはぶり大根にして食べるものという先入観がばっちり植え付けられていたんですね。
ところが……
いざキッチンに立ってぶりの切り身と向き合った時に自問しました。
「本当にその食べ方しかないのか?」
だってぶりという食材は和食の専売特許ではない気がします。
中国でだって食べるのでは? だったら中華料理の世界でまさか照り焼きにするということもありますまい。
「このぶりにはもっといろいろな食べ方があるんじゃないか?」そんな思いに突き動かされてスマホを操作した結果──こんな料理に出会いました。
なんかこうやって食材に対する視野が広がるのってちょっと嬉しい。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- ぶり:1切れ
- 塩:少々
- 片栗粉:適宜
- 揚げ油:48g(大匙4)
[香味ソースパート]
- 白ネギ:白いところ5cm
- おろし生姜:ひとかけ分
- 濃口醤油:12g(小匙2)
- 酢:10g(小匙2)
- ごま油:4g(小匙1)
- 砂糖:3g(小匙1)
【作り方】
- ぶりは塩少々を振り5分置きます。これをキッチンペーパーで水気をふき取り片栗粉を薄くまぶします。
- 1.の工程終わり1分前になったらフライパンに揚げ油を張って強火で2分温めます(温めている間にぶりに片栗粉をまぶす手順まで済ませます)。この揚げ油にぶりを入れて1分半揚げ焼きします。ひっくり返して更に1分半揚げ焼きしかす揚げで掬って油を切ります。
- 揚げ焼きと同時並行で白ネギをみじん切りにします。[香味ソースパート]を全て合わせてよく混ぜておきます。
- ぶりを深皿に盛り[香味ソースパート]をたっぷりかければできあがり。
【一口メモ】
- 酢と生姜のさっぱり感が面白い。ぶりというと照り焼きしか思い浮かばなかったけどこういう食べ方もありだな。
- 辛口がお好みなら[香味ソースパート]
- に豆板醤を3g(小匙1/2)加えるとピリ辛味になります。
- この香味ソースは揚げ物全般に合いそうです。豚肉の唐揚げでやっても楽しいと思いますのでぜひお試しあれ。