僕が大学時代に所属していた男声合唱団には、こんなジンクスがありました。
「2年続けば伝統になる。2年やらなければ忘れ去られる。」

例えば、ある年の定期演奏会で黒人霊歌集を歌ったとします。
翌年、「前年にやりたかったけど尺の都合で採用されなかった曲」を集めて、また黒人霊歌集を歌ったとします。
これで2年。
その翌年、次世代の学生指揮者はだいたい3年生が受け継ぐことになります。
つまり、彼が入学して初めての演奏会でも翌年の2年生でも、ずっと黒人霊歌を歌っているわけです。

そうするとなんとなく、「自分が担当する定期演奏会でも黒人霊歌をやらなきゃ」と思ってしまい、そのままずっと毎年続いていく──つまり「(黒人霊歌が)伝統」になるというわけです。
逆もまた然り。
ある年の指揮者が黒人霊歌を見送り、翌年もやらなかったら、その翌年の指揮者は入学以来、一度も黒人霊歌を歌っていないので「(そんな伝統があったことも)忘れ去られる」のです。

冗談めかして語り継がれていたジンクスですが、一片の含蓄はあったなと振り返って思います。
巷では「昔ながらの」だとか「伝統ある」なんて言われているものも、歴史を紐解いてみれば案外、広まったのはごく最近──なんて話はよくあります。
例えば『おせち料理』は“伝統料理の代表選手”のように思われがちですが、太平洋戦争前には『おせち料理』という言葉はありませんでした。
戦後、百貨店が年末商戦の目玉として豪華な料理を重箱に詰め、それをそう呼ぶようになったのが発端です。

なんか、バレンタイン・デーをチョコレート会社が広めたのに似ていますね。
バレンタイン・デーは僕が子どもの頃(昭和40年頃)に急に耳にするようになったイベントですが、おせち料理という言葉を耳にするようになったのは、その十数年前(しかも百貨店の販売用ネーミング)。
……なんて知ってしまったら、“伝統”呼びも少し怪しくなりそうです(笑)

あ、誤解がないように言っておきますが、お正月に特別な料理を神様にお供えしてお下がりをいただく風習は、「食積(くいつみ)」とか「蓬莱(ほうらい)」と呼ばれて戦前からありました。
──なんてことを考えていたら、僕らにもっと身近な食べ物、つまりお米料理の歴史に興味が湧いてきました。
白ご飯、雑炊、茶漬け、卵かけご飯、炒飯、天津飯のようなあんかけご飯……
お米料理には多種多様なものがあります。

これにも“伝統の古参”と“新参者”があるんじゃないかと思い、少し調べてみました。
■【紀元前~弥生時代】なんと、おにぎりの原型は既にあったらしい。

■【奈良~平安(8?12世紀)】米は“炊く”ではなく“蒸す”のが一般的。
雑炊、混ぜご飯が登場。
■【鎌倉~室町(12?15世紀)】武士の湯漬け文化(お茶漬けの祖先)が誕生。
巻き寿司の原型や押し寿司が登場。
■【戦国~江戸前期(16?17世紀)】ようやく白ご飯が登場(かまど普及のおかげ)。
炊き込みご飯、焼きおにぎりも登場。

焼きおにぎりは味噌の普及と深い関係があります。
■【江戸後期(18~19世紀)】江戸のグルメブーム到来。
寿司、丼物が開花。
最古の丼物は鰻丼、天丼。

お茶漬けも定着。
■【明治(19世紀末~20世紀初頭)】中華・洋食の襲来。
炒飯やカレーライスが広まる。
日本発祥の中華「天津飯」もこの頃誕生。
そして、生卵の衛生管理が普及して……TKG誕生!

■【大正?昭和初期(1910~30年代)】ご飯物の多様化。
カツ丼、親子丼などが登場。
ハヤシライスの確立。
家庭用コンロの普及で、家でも炒飯が作れるようになった!

■【昭和中期~平成(1950?90年代)】お手軽さを追求。
永谷園のインスタント茶漬け、カレールウ、レトルトカレー、混ぜご飯の素など「これさえあれば◯◯ができる」系が続々。
■【現代(2000年代~)】オリジナリティの追求。
創作丼・創作混ぜご飯が爆発的に多様化。

“Onigiri”も国際化。
たった十数秒でこの情報を提供してくれるChatGPT君はすごいなぁ。
食文化の一大年表ができちゃいましたよ。
あらためて読むと、予想どおりのものもあれば、「え、こんなに古いの?」とか「意外と最近じゃん!」という発見もありました。
今日の料理である炒飯は想像どおり、明治以降の中華到来とともに普及したようです。

ただ、『ツナたま炒飯』みたいな攻めたアレンジとなると、平成か令和を待つことになりそうですね。
そして、思うのです。
紀元前、つまり2000年以上前から令和の今に至るまで、お米料理の進化が立ち止まった瞬間はなかったこと。
ずっとずっと進化し続けて、この『ツナたま炒飯』に至った……
いや、さすがに“ご飯の歴史はツナたま炒飯を目指して進化した”わけじゃないとは思いますけど(笑)。
そしてもうひとつ大事なのは、僕らは決して坂の頂に立っているわけじゃないということ。

この年表の末尾は終着点ではなく、これからも100年、1000年、誰も見たことがない『お米料理』が生まれ続けていくのでしょう。
【材料】(1人分)
-調理時間:7分-
- ご飯:1膳分
- ツナ缶:半分(残りはサラダなどにどうぞ)
- 卵:1個
- マヨネーズ:6g(大さじ1/2)
- 刻み葱:10cm分
[調味料パート]
- 塩:1g(小さじ1/6)
- 鶏ガラスープの素:小さじ1/2
- ホワイトペッパー:少々
【作り方】
- 卵にマヨネーズを加えてよく溶きます。炒めに使う中華鍋(またはフライパン)の上でツナ缶の蓋を半分開き、蓋でツナ本体を押さえながら漬け込み油を鍋に注ぎます。 ※蓋でツナをしっかり押さえ、絞るようにして油をきっちり切りましょう。
- 中華鍋を強火にかけ、うっすら煙が立つまで加熱します。卵を流し入れてざっと混ぜ、すぐにご飯を加えてよく和えながらパラパラになるまで炒めます。炒め終わったら一度皿に取ります。
- 鍋を洗わずそのまま中火にし、ツナと刻み葱を加えて30秒ほど炒めます。ご飯を戻し、調味料パートを加えてざっと混ぜたらできあがり。
【一口メモ】
- 普通の炒飯はサラダ油で卵とご飯を炒めますが、今回はサラダ油の代わりにツナ缶の漬け油を使用。ツナ好きならめっちゃハマりそう。しかも、マヨを加えてツナマヨとか最強コラボじゃん。
- ツナ缶を使った料理のレシピでは「しばしば漬け込んだ油を切って」と書かれているものがありますが、ツナ缶の油を切る際は、工程1のように蓋で押さえながら絞るとしっかり切れます。
- 具材は敢えて卵とツナに集中。葱がなければ玉ねぎ(1/4個)みじん切りでもOK。ニラに替えると風味がガラッと変わり、それもまた良しです。

