少年ジャンプに連載されていたお料理漫画「食戟のソーマ」はミスター味っ子と同様の料理勝負を主軸にした作品と言えますが過去作と一線を画する独特の演出方法が効果的に使われていました。
それは専門用語の多用。
ポワレ、ミルポワ、クレピーヌ、ガルニチュールなどおよそ小中学生男子が読む読み物らしからぬ料理用語のオンパレード。
アニメの実況者(恐らくは良いおっさん世代と推定)をして「日本語でOK」と言わしめることもしばしば。
けれど登場人物たちが当たり前のようにそれらの用語を口にすることで彼らが料理のプロを目指しているというリアリティが効果的に演出できていました。
そういった素人離れした空気感の演出は専門用語だけではなく、出される料理の内容にもふんだんに施されておりました。
丼物、唐揚げ、ラーメン、お弁当など少年誌連載作ゆえに扱われる料理が小中学生男子の興味を掻き立てるジャンルに特化しなければいけないという縛りがあるにも関わらずその料理に加えられる創意工夫は明らかにプロの経験と知識に基づくアイデアと思われるものがちりばめられていました。
長期連載の宿命で後半になってくると少しそういった演出にも苦しいところが出て来ていたのですが初期の頃は間違いなくプロの料理人や料理研究家渾身の一品がちらほら登場していましたね。
このおにぎりのアイデアもその一つ。
主人公たちが朝の野良作業(自分たちの扱う食材は自分たちで栽培しているのです)の差し入れに同級生の田所恵がこしらえたものです。
彼女はあがり性が災いして実技成績こそ最下位ですが調理技術は確かで丁寧。
最大の武器は母性を感じさせるホスピタリティ──食べる人に対する思いやりです。
とくれば他ジャンルのコミックスなら梅干しとかおかかと言ったおふくろの味的な料理が出てきそうなものです。
けれど同作は料理漫画。
彼女が用意したおにぎりの具材は茹でた豚バラ肉をにんにく味噌とハチミツで漬け込んだものと昆布のチーズに佃煮を和えたもの。
どちらも野良仕事でかいた汗で失われた塩分を取り戻し1日をスタートを切るための元気が出る料理です。
加えてその発想はコンビニやスーパーに並ぶおにぎりのようなありきたりなものではなく素人離れしています。
それでいて小中学生男子が容易にイメージできて「おいしそう」と思わず手を伸ばさずにはおられないおにぎりですよね。
初めてこのおにぎりのアイデアも見た時はこの「プロらしいアイデアの詰まったおにぎり」という命題と「子供でもイメージできる身近な食材で作る」という命題をよくぞ両立させたと感心したものです。
で、いつかこのおにぎりは作ってみたいなと考えていたのですが過日、ピクニックのお弁当をこしらえていてご飯ものをどうするか迷っていた際に丁度思い出したので良い機会だと思って試作してみました。
【材料】(おにぎり1個分)
-調理時間:15分-
- ご飯:半膳分
- 塩:1g(小匙1/6)
- すしはね:半枚
- おしゃぶり昆布:ひとつかみ
- ごま油:4g(小匙1)
- とろけるスライスチーズ:1枚(ピザ用チーズでも可)
[戻し汁パート]
- 蕎麦の本返しまたは麺つゆ:小匙2
- 水:20g(20ml)
- 砂糖:3g(小匙1)
- 粉山椒:少々
【作り方】
- おしゃぶり昆布をキッチンバサミで細切りにします。これと[戻し汁パート]を合わせて10分置きます。
- 1.を待っている間にスライスチーズをピザ用のチーズのように細切りにしておきます。ご飯に塩を混ぜ込みます。すしはねを半分に切ってご飯を三角形になるようにその上に盛ります(手前が三角形の底辺になるようにしてください)。
- フライパンにごま油を入れて中火にかけます。1.を加えて煎り付けながら水気がほぼなくなるまで炒めれば即席の佃煮の完成。これとスライスチーズを合わせて和えます。
- 2.のご飯の上半分に3.を埋め込むように盛ります。海苔の上側の角を羽織を羽織る要領で畳んでご飯を巻き込めばできあがり。
【一口メモ】
- 佃煮の濃い甘辛味とチーズは意外と相性が良いです。そして程よい塩気。ご飯にチーズってどうよと危惧する方もいるかもだけどぜんぜん違和感ないですよ。
- 佃煮に使ったおしゃぶり昆布は百均ショップで売っているものを使いました。ガチの昆布を使うととんでもなく高く付きますがこれはもちろん100円(税別)。とてもお手軽に自家製の佃煮が楽しめます。
- [戻し汁パート]には粉山椒を使っていますがピリ辛がお好きなら七味唐辛子を使っても美味しいです。あと工程3.で火を止めてからおかかを混ぜ込むと風味が更に良くなりますよ。