ハンバーグはなぜ、ハンバーグなのか?
──なんか、いきなり哲学っぽい問いかけを書いてしまいましたが、ふとそんな素朴な疑問が脳裏に浮かんだのです。
ここに焼きあがったばかりのハンバーグの写真があったとします。
ジュウジュウという音が聞こえて、肉汁の美味しそうな匂いが漂ってきそうな1枚。
それを見せて「これはなんという料理ですか?」と人に訊ねたら、誰もが「ハンバーグ」と答えるでしょう。
間違っても「卵焼き」なんて答える人はいないと思います。
けど、ちょっと考えてみてください。
100人中、100人が満場一致で同じ答えを返すって実は凄いことだと思いませんか?
これが冒頭に書いた"ハンバーグはなぜ、ハンバーグなのか?"という問いかけです。
どうにも気になったので、この状況を成立させるためにはどんな条件が必要かちょっと整理してみました。
- まず、この料理にハンバーグという名前が付けられていること
- その料理名が広く知られていること
- その料理を多くの人が見たことがあって(恐らくは食べたこともあって)、料理のビジュアルと"ハンバーグ"という名前が紐づけて認識されていること
そもそもの前提として"ハンバーグ"という名前が付いていなければ誰もそうは呼びません。
でも、その名前が付けられていたとしても、誰もそれを知らなければその名前を口にする人はいません。
そして、"ハンバーグ"という名前の料理があることは多くの人が知っていたとしても実際にその料理を見たことがなければ、いくら迫真の写真を見せられてもそれがハンバーグだとはわかりません。
これら3つの条件が揃っているからこそ、誰もが「これはハンバーグの写真です」と言えるのです。
世の中にはネームド(named)──ゲームやアニメ、漫画の用語で固有の名前が付けられた登場人物、事物を指す言葉──と呼ぶべき料理が数多あります。
ハンバーグ、卵焼き、きんぴらごぼうなどなど。
それらはかつて、どこかのお店の料理人が名付け親になって、そのお店で食べたりテイクアウトしたお客たちが名前を覚えたからこそネームドになったわけです。
反面、世の中にはアン・ネームドとも呼ぶべき"名もなき料理"が存在します。
外食や中食(お惣菜を買って帰って家で食べるスタイル)が今ほどありふれたものでなかった時代、夕飯といえばお母さんが家で作った料理を家族で食べるのが一般的でした。
お母さんたちは時に名の知れたネームドを作ることもありましたが、家にあるあり合わせの食材で適当におかずを作ることも往々にしてありました。
そんな"適当に作った料理"にはいちいち名前を付けたりしません。
ですので、長い歴史の中で一晩限り食卓に登場しては消えていった通行人Aみたいなアン・ネームド料理が星の数ほどあったことでしょう。
過日、冷蔵庫のあり合わせでこんな料理を作りました。
そのまま自分で食べるだけですから、もちろんアン・ネームド料理。
けど、意外と侮れない味だったのです。
きんぴらごぼうのように広く知られて、江戸の昔から令和まで脈々と食べ続けられた料理は確かに凄い。
けれど、アン・ネームド料理の中にも一夜限りで忘れられてしまうには惜しいものがたくさんあったと思うのです。
ということで、"豚肉といんげんのごまみそ煮"という名前を付けて、この料理をネームドに仲間入りさせました。
こうやってレシピを書いておけばまた、いつの日か、どこかのお家の夕食を賑わしてくれるかもしれないと夢想しながら。
【材料】(1人分)
-調理時間:20分-
- 豚バラスライス:80g
- さやいんげん:50g(5本くらい)
- 木綿豆腐:半丁(150g)
- 生姜スライス:1枚
- ごま油:4g(小さじ1)
[煮汁パート]
- かつお出汁:100g(カップ1/2)
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 酒:7.5g(大さじ1/2)
- 味醂:9g(大さじ1/2)
- 砂糖:3g(小さじ1)
[仕上げパート]
- 味噌:9g(大さじ1/2)
- すりごま:3g(大さじ1/2)
【作り方】
- 豚肉を食べやすい大きさに切ります。さやいんげんは端の固い部分を切り落とし、三等分します。豆腐は1.5cmの賽の目に切ります。生姜は千切りにします。
- フライパンにごま油と生姜を入れて中火にかけます。香りが立ってきたら豚肉を加えて色が変わるまで炒めます。さらにさやいんげんを加えて1分炒めます。
- 2.に豆腐と[煮汁パート]を加えてひと煮立ちさせます。落とし蓋をし、弱めの中火で10分煮ます。 ※落とし蓋の手持ちがない場合は、アルミホイルを被せることで代用できます。
- 3.に[仕上げパート]を加えて、再度落し蓋をし、3分煮ればできあがり。
【一口メモ】
- 冷蔵庫のあり合わせで作った煮物です。世の中にはハンバーグやフライドポテトのように万人にその名を知られたネームドと呼ぶべき料理がありますが、普段のお惣菜はこういった「名無し」な料理が大半だと思うのです。
- 味付けのポイントは醤油を控えめにして、仕上げに味噌で塩気を補強すること。コクがぐんと上がります。そして、味噌は煮すぎると風味が飛びますので後から加えて手早く仕上げるのがコツです。
- 豆腐の代わりに白ネギや糸こんにゃくを加えて鍋物風にしても楽しいですよ。辛いのがお好みなら[仕上げパート]に豆板醤を適宜加えてください。