「ねぎ塩ダレ」のレシピのコラムパートで、フランスのロベール・ウーダンという奇術師について少し触れたのですが、もう少し語ってみたいと思います。
彼がマジシャンデビューしたのは1845年。
19世紀半ばですね。
彼が登場するまでのマジシャンの服装と言うと、とんがり帽子にダブダブの服を着たまるで絵本に出てくる魔法使いのような格好が定番でした。

いかにも服や帽子のあちこちにマジックの種を隠せそうな見た目ですよね。
ところが──彼はステージを煌々とライトで照らし、タキシードにシルクハットというスタイルで登場したのです。
見た目は魔法使いっぽくなく、種を隠せそうなところはどこにもないのに、彼は次々とまるで魔法のようなマジックを披露しました。

これが彼をして「近代奇術の父」と呼ばしめるゆえんです。
ある時、彼の下にマジシャン志願の青年が弟子入りをしたくて訪ねてきました。
いろいろ勉強してきていると熱心に語る青年にウーダンはこう訊ねました。
「君はいくつくらいマジックの種を知っているのかな」
「はい、200種類くらいは覚えました」
嬉しそうに答える青年にウーダンはこう返します。
「それは凄い。僕なんかマジックの種は2つか3つしか知らないよ」

僕が読んだエッセーではこの話はここで終わっていて、青年がどうなったかは書かれていません。
けれど、恐らくウーダンは青年にお帰り願ったんじゃないかなと想像しています。
思えば、この質問は青年がマジックの本質を理解しているかどうかを試すテストだったんじゃないかと僕は思うのです。
青年が覚えた200種類の種を使えば確かにいろいろなマジックを披露できます。
それだけの手持ちがあれば長く人を飽きさせずにマジシャンとしてやっていけるでしょう。

けれど、「なぜ、観客はそのマジックを魔法のようだと思うのか」というマジックの本質が分かっていなければそれは特定の演目の種でしかなく、それ以上の発展はありません。
料理に例えると「麻婆豆腐を作りたいから麻婆豆腐の素を買ってこよう」、「シーザーサラダが食べたいからシーザーサラダドレッシングを買ってこなくっちゃ」と考えるのに似ています。
確かにそれらを買って来れば思っていた料理は作れますが、そこでおしまい。

他の料理への発展はありません。
それに対してウーダンが知っていると言ったマジックの種というのは特定の演目のそれではなく、もっと汎用的な「観客心理の操作術(=トリック)」を指しているのだと思います。
この条件を整えれば観客はこう錯覚する。
こう振舞えば観客はこう誤解する──観客の心の綾(あや)こそがマジックの本質だとウーダンは理解していたのでしょう。

それが分かってさえいれば見せ方を変えても観客を騙すことができる。
そして、ちょっと見せ方を変えるだけで、観客は新作マジックを見た気になって拍手喝采してくれる。
本当は新作でもなんでもなくて同じトリックで騙されているだけなんだけどね──
案外彼は心の中でそんな風に考えて舌を出していたのかもしれません(笑)
料理をマジックの演目に例えるとすればマジックの種は調味料やスパイス、香味野菜ということになると思います。

そして、実はどこの家にでもありそうな10種類にも満たない調味料を使えば大半の料理は作れてしまうのです。
もちろん、塩は塩、砂糖は砂糖。
そのまま食べても美味しいものではありません。
けれどそれをどう組み合わせれば食べる人がどう感じるかを知っていれば、それらを使って和食、洋食、中華料理、いかようにでも仕立てることができるのです。
一例を挙げると、家族にその料理を中華料理だと思わせたければほんの少しごま油を加えてください。

さらにみじん切りにした生姜とにんにくを加えれば完璧。
不思議と中華料理的な風味を持った料理に仕上がります。
このレシピで作るチャーハンがしっかり中華テイストなのも[塩ダレパート]にそれと同じトリックが仕掛けてあるからなんですよ。
もし料理自慢の誰かが何百種類ものレシピを知っているとマウントを取ってきたら、ぜひこう言い返してみてください。
「それは凄い。僕なんか数種類しか知らないよ」
相手のきょとんとした顔を見てマウントを取り返した気分になれますよ……って、性格悪いな(笑)
【材料】(1人分)
-調理時間:6分-
- ご飯:1膳分
- 卵:1個
- 豚ミンチ(合い挽きでもOK):30g
- サラダ油:4g(小さじ1)
[塩ダレパート]
- 白ネギ:半本(白いところ、緑色のところ半々で)
- 鶏がらスープの素:4g
- ごま油:24g(大さじ2)
- すりごま:9g(大さじ1.5)
【作り方】
- 卵はよく溶いておきます。[塩ダレパート]を合わせてよく混ぜておきます。
- 中華鍋かフライパンにサラダ油、豚ミンチを加えて色が変わるまで炒めます。
- 2.に[塩ダレパート]を加えて強火にかけます。タレがふつふつ煮立ってきたら卵を入れてさっとかき混ぜます。さらにご飯を加えて卵と和えるようにしながらパラパラになるまで炒めればできあがり。
【一口メモ】
- ごま油に葱と鶏ガラスープのコラボレーション。めっちゃ香ばしい本格中華風のチャーハンに仕上がりますよ。
- このレシピの[塩ダレパート]の部分は別途「ねぎ塩ダレのレシピ」として書き残したので、わざわざそれを使ったチャーハンのレシピはいらないかなと最初は考えました。ただ、多めの油で卵とご飯を先に炒める一般的な炒飯とは手順が少し違うのでやっぱり書き残しておきます。
- ミンチの代わりに炒ったアミエビを使うと香ばしさがアップしますよ。ただ、焦げやすいので工程2.でさっと炒めたら速やかに工程3.に移行しましょう。
- お好みで[塩ダレパート]にみじん切りにした生姜やにんにくを加えると風味が複雑になります。あと、仕上げに練りごまを6g(小さじ1)加えて混ぜ込むとごまの風味が立って楽しいですよ。

